○東京におけるマンションの管理の適正化に関する指針
令和元年一〇月三一日
告示第六四八号
東京におけるマンションの適正な管理の促進に関する条例(平成三十一年東京都条例第三十号)第四条第二項の規定に基づき、マンションの管理の適正化に関する指針を次のように定めたので、同条第三項の規定により告示する。
東京におけるマンションの管理の適正化に関する指針
第1章 総則
第1 制定の趣旨
この指針は、東京におけるマンションの適正な管理の促進に関する条例(平成31年東京都条例第30号。以下「条例」という。)第4条第2項の規定に基づき定めるものであって、良質なマンションストック及び良好な居住環境の形成並びにマンション周辺における防災・防犯の確保及び衛生・環境への悪影響の防止を図るため、マンションの管理の主体である管理組合が、マンション管理士、マンション管理業者及びマンション分譲事業者による条例第6条から第8条までの規定の趣旨を踏まえた協力並びにその他のマンションに関わる者の協力の下、行政の助言や支援を受けながら、マンションの適正な管理の推進及び社会的機能の向上に資する取組を実施する際の具体的な指針となるものである。
第2 用語の定義
この指針における用語の意義は、条例及び東京におけるマンションの適正な管理の促進に関する条例施行規則(令和元年東京都規則第74号。以下「規則」という。)の例による。
2 この指針において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(1) 理事 管理規約の規定に基づき、総会の決議により選任された区分所有者等又は区分所有者等以外の者で総会の決議により選任された者であって、管理組合の業務を担当するものをいう。
(2) 監事 管理規約の規定に基づき、総会の決議により選任された区分所有者等又は区分所有者等以外の者で総会の決議により選任された者であって、管理組合の業務の執行及び財産の状況を監査し、その結果を総会に報告するものをいう。
(3) 役員 理事(理事長、副理事長、会計担当理事を含む。)及び監事をいう。
(4) 理事会 理事により構成される管理組合の業務の執行機関をいう。
第3 実施の主体
管理組合及び区分所有者等は、管理組合の活動に際し、この指針に示す事項に取り組むよう努める。
第2章 管理不全を予防するための必須事項
第4 管理組合の運営体制の整備
マンションの管理は、区分所有者等が自らの責任で行うものであり、区分所有者等により構成される管理組合が、マンションの管理の主体として、管理組合の運営を適正に行うことが必要である。
2 管理組合の運営は、情報の開示、運営の透明化等を図りながら、区分所有者等の合意に基づいて行うことが必要である。
3 管理組合は、自ら主体的に継続的な活動を行っていくために、次に掲げる事項について取り組むことが重要である。
(1) 居住実態に即した管理規約を保持していること。
(2) 適切な理事会運営を担保する細則を定めていること(ただし、外部の専門家に管理を委ねる場合や、規模の小さいマンションの場合等で、理事会を設けないときを除く。)。
(3) 事故や自然災害等に対応できる体制を整えていること。
(4) 居住者間の良好なコミュニティの形成に取り組むこと。
4 マンション管理には、専門的な知識も必要となることから、マンション管理業者への委託、マンション管理士等の専門家の効果的な活用について検討するとともに、行政の助言や支援を受けることも考えられる。
第5 管理者等
区分所有者等は、建物の区分所有等に関する法律(昭和37年法律第69号。以下「区分所有法」という。)第25条に規定する管理者(区分所有法第49条第1項に規定する管理組合法人の理事を除く。)を選任することが必要である。
2 管理者等は、マンション管理の目的が達成できるように法令等を遵守し、区分所有者等のため、誠実にその職務を執行する必要がある。
第6 管理規約
管理組合は、マンション管理の最高自治規範である管理規約やこれに基づく細則(以下「管理規約等」という。)が、居住者の行動規範(住まい方のルール)として遵守され、マンションを取り巻く社会環境の変化等に即したものとなるよう、次に掲げる事項について取り組むことが必要である。
(1) 居住実態を踏まえた自主的な管理規約等とすること。そのため、管理規約等の点検に努め、法令等や標準管理規約(平成29年8月29日付国土動指第27号・国住マ第33号等)の改正等のマンション管理を巡る状況の変化が生じた場合や不衡平な規定の存在が明らかになった場合等において、必要に応じて管理規約等を改正すること。
(2) 専有部分及び共用部分の使用方法並びに理事会の運営等に関し、必要に応じ細則を設けること。
(3) 管理規約等の原本を保管し、保管場所を掲示するとともに、改正理由等を時系列に整理しておくこと。
(4) 管理規約等が遵守されるよう、広報活動、コミュニティ活動等による継続的な取組を行うこと。
(5) 区分所有権の移転等に際し、区分所有者等又は区分所有者等からの媒介の依頼を受けた宅地建物取引業者等の利害関係人から、管理規約や総会議事録、会計帳簿、長期修繕計画書等の管理組合の財務・管理に関する情報の開示を求められた場合の開示する情報の範囲や方法について定めておくこと。
(6) 管理規約等の違反者への対応を定めておくこと。
第7 総会の開催等
管理組合は、総会が管理組合の最高意思決定機関であることを踏まえ、区分所有者等全員による議決権の行使や総会運営の透明性の確保に向けて、次に掲げる事項について取り組むことが必要である。
(1) 少なくとも年1回、総会を開催すること。
(2) 緊急を要する場合を除き、総会の開催の通知に先立ち、開催予定日が明らかになり次第、掲示板等で開催の予定日時を周知すること。
(3) 重要な案件について、事前説明会、アンケート等による意見聴取に努めること。
(4) 総会の開催の通知に当たっては、出席・欠席の確認書のほか、議案に係る議決権行使書及び委任状を添付すること。
(5) 総会の終了後、早期に議事の内容について整理・確認し、議事録を作成すること。
(6) 総会の議事録は、適宜戸別配布を行うとともに整理・保管し、区分所有者等又は利害関係人からの書面による請求に対し随時閲覧できる状態にするなど、情報の透明化及び共有化を図ること。
2 管理組合は、円滑な組合活動を行うため、次に掲げる事項について取り組むことが重要である。ただし、外部の専門家に管理を委ねる場合や、規模の小さいマンションの場合等で、理事会を設けないときは、(2)及び(3)の限りでない。
(1) 管理組合は、総会の決議により役員を選任すること。また、選任された役員は、それぞれの職務を誠実に行うこと。
(2) 管理組合の業務執行を決定するため、理事会を置くこと。
(3) 管理組合は、少なくとも2か月に1回定期的に理事会を開催すること。
その運営に当たり、安定性、公正性及び自立性を確保するため、基本的な事項を管理規約に、管理規約に定めのない事項及び補足する事項を細則に定めること。
(4) 管理規約には、管理組合の役員に関して定めること。定める事項の例としては、役員の資格、欠格条項、利益相反取引の防止、役員の選任方法、役員の任期と管理運営の継続性を確保していくための措置、役員に欠員が生じた場合の措置、理事の職務、監事の職務及び理事会への関与(ただし、理事会を設けない場合を除く。)が挙げられる。
第8 管理費
管理組合は、マンションの管理の実態に応じ、管理費として区分所有者等が拠出すべき額及びその徴収方法を定め、適切に使用することが必要である。
第9 修繕積立金
管理組合は、マンションの維持保全の実態に応じ、修繕積立金として区分所有者等が拠出すべき額及びその徴収方法を定めることが必要である。
また、修繕積立金は、管理費とは区分して経理することが必要である。
2 修繕積立金の設定に当たっては、特に、経年による劣化に対応するため、長期修繕計画に定められている修繕工事を実施できるよう、必要な金額を積み立てておくことが重要である。
なお、長期修繕計画の見直しに合わせて、必要に応じて積立方式等の資金計画を見直すことが重要である。
第10 修繕の計画的な実施
管理組合は、計画的な修繕工事を円滑に実施するため、マンションの実情に応じて最適な実施方法等を検討の上、次に掲げる事項について取り組むことが必要である。また、必要に応じて第三者的立場の専門家による公正かつ客観的なアドバイスを受けることが重要である。
(1) 計画的な修繕工事の実施に向けた専門委員会の設置
(2) 計画的な修繕工事の実施体制
(3) 計画的な修繕工事の内容・仕様
(4) 計画的な修繕工事を実施する業者の選定方法
(5) 計画的な修繕工事に要する費用の調達方法
(6) 計画的な修繕工事に関する履歴の保管方法
(7) 長期修繕計画への反映
第3章 適正な管理を行う上で重要な項目
第11 長期修繕計画
管理組合は、快適な居住環境及び資産の維持保全を図るため、建物・設備の実態に即した長期修繕計画を作成し、定期的に見直しを行うことが重要である。
第12 出納・会計処理
管理組合は、適正な資金管理、公平な負担と使途の透明性の確保を図るため、次に掲げる事項に関する規定を細則に定めることが重要である。
(1) 出納・会計に係る処理基準及び管理費の具体的な支出内訳
(2) 修繕積立金の運用方法
(3) 会計処理及び財産状況の監査の方法
第13 滞納防止・滞納処理
管理組合は、管理規約等にあらかじめ滞納者に対する措置を定め、区分所有者等に対し周知しておくとともに、滞納が発生した場合は、滞納管理費等に消滅時効があることも踏まえて、迅速に取り組むことが重要である。
第14 区分所有者等の名簿
管理組合は、区分所有者等への平常時における連絡に加え、火災、地震、風水害等、緊急時の迅速な対応を行うため、次に掲げるものを常備するとともに、(1)及び(2)の名簿は常に最新の情報に更新しておくことが重要である。
(1) 区分所有者等名簿(非居住者を含む。)
(2) 居住者名簿及び避難行動要支援者名簿
(3) 名簿の取扱いに関する規程
第15 耐震化対策
管理組合は、建築確認済証の交付年月日が昭和56年5月31日以前の建物については、耐震性が不足している可能性があるため、マンションの耐震化対策に関する円滑な合意形成に向け、区分所有者等に対して、その重要性について説明し、次に掲げる事項に留意しながら、耐震化対策に取り組むことが重要である。
(1) 専門委員会の設置や専門家の活用等、計画的な実施に向けた検討体制を確保すること。
(2) 耐震診断、耐震設計及び耐震補強工事に係る費用負担その他住戸への影響等について、区分所有者等の理解を十分に得ること。
(3) 構造面における耐震化対策だけにとどまらず、設備に関する耐震対策も行うなど、総合的な視点で耐震化を進めること。
(4) 耐震診断の結果、耐震性が不足しているにもかかわらず、早期に耐震補強工事を実施することが難しい場合は、長期修繕計画を見直し、実施目標を設定すること。
第16 マンションに関する情報等の保管
管理組合は、マンション管理業者と連携を図りつつ、次に掲げるものについて、主体的に情報を整備し、保管するよう取り組むことが重要である。
(1) 管理規約、細則、総会議事録、理事会議事録、長期修繕計画、設計図書及び修繕等の履歴情報等の書類
(2) 会計帳簿、什器備品台帳、組合員名簿その他帳票類
(3) 管理組合の財務・管理に関する情報
(4) マンション共用部分の点検や調査・診断等を行った時に作成・提供される書類等
(5) 専有部分の修繕等に関する工事の書類等
第4章 マンションの社会的機能を向上する取組
第17 防災対策
管理組合は、火災、地震、風水害等に備えるため、次に掲げる事項に取り組むことが望ましい。
(1) 総会や理事会で意思決定ができない場合や緊急に専有部分に立ち入らなければならない事態が生じた場合の管理規約等におけるルールの整備
(2) 自主防災組織の設置
(3) 防災マニュアルの作成
(4) 屋内の避難場所の確保
(5) 防災用備蓄倉庫の設置
(6) 地震等による被災時に必要となる設備機器及び資材の確保及び継続的な維持管理
(7) 飲料水及び非常用食糧の確保等
(8) 避難行動要支援者の把握
(9) 防災訓練の実施
(10) 火災・地震保険の加入
第18 住環境の維持
マンションにおける快適で安全な住生活を維持し、また向上させていくためには、防犯や防災、衛生、景観等、良好な住環境を維持していくことが重要であることから、管理組合は、次に掲げる事項について取り組むことが望ましい。
(1) 良好な住環境の維持のために必要なルールを整備すること。
(2) 防犯性の高いマンションとするため、居住者の安全を確保する対策の充実を図ること。
(3) バリアフリーの観点から共用部分の維持管理・点検の仕組みを整えること。
(4) 法令等による緑化や駐車場附置等の基準を遵守するため、外構の維持管理・点検を行うこと。
(5) 省エネルギーの観点から、共用部分について、照明のLED化や断熱性能の向上等の検討を行うこと。
(6) 地域の安心・安全の確保や住環境の維持のために行政が行う施策に協力すること。
第19 居住者コミュニティ・地域コミュニティ
管理組合は、マンションにおける快適で安全な住生活や円滑な管理組合運営を確保していくため、次に掲げる事項について取り組むことが望ましい。
(1) 快適で安全な住生活や円滑な管理組合運営の確保のために必要なルールを整備すること。
(2) 継続的に居住者間のコミュニティの形成を図ること。
(3) マンション及び周辺の風紀、秩序及び安全の維持、防災並びに居住環境の維持及び向上に係る活動に関して、行政や地域コミュニティとの連携を図ること。
第5章 その他マンションの管理の適正化に関する重要な事項
第20 マンション管理業者への委託等
管理組合は、マンション管理業者に管理を委託する場合は、マンション管理業者と良好な関係を構築し、自律的な運営をしていくため、その委託に当たり、自主的に委託内容を決め、内容の透明性を確保するとともに、事前に区分所有者等間の合意を得るものとする。
第21 外部専門家の活用
管理組合は、外部の専門家に対し、管理組合の管理者等又は役員への就任を依頼する場合は、利益相反等に注意し、管理業務の委託や工事の発注等について、ルールを整備しておくことが望ましい。
2 外部の専門家を管理者等とする場合、当該専門家は、その判断・執行の誤りによる財産毀損に係る賠償責任保険に加入していることが望ましい。
第22 専有部分への対応
専有部分の管理は、区分所有者等が自ら行うことになるが、管理組合は、リフォーム等の実施、区分所有権の売買、専有部分の貸与、長期不在住戸への対応、災害・事故等の緊急時の立入りなどに関するルールや手続について明確にしておくことが望ましい。
第23 マンションに関する情報等の開示
管理組合は、売買時における管理組合の運営・財産状況等、管理に係る情報を、購入予定者等に対して可能な限り購入検討時期に開示することが望ましい。
第24 行政機関に対する届出等
(1) 法定の点検等に係る対象設備、部位の一覧を用意し、区分所有者等への周知を図ること。
(2) 法定の点検等の報告書又はその写しを保管し、区分所有者等が随時閲覧できる状態にすること。
(3) 法定の点検等で指摘があった際には、その改善等に向けて適切に対応すること。
(5) その他行政から調査等の要請がある場合は、必要な協力を行うこと。
第25 マンションの再生
管理組合は、早い段階から将来の建替えや改修等、再生に向けての意識を持つことが重要であるため、次に掲げる事項について取り組むことが望ましい。
(1) 区分所有者等への再生に関する意識の啓発
(2) 再生に向けての検討体制の整備
(3) 再生に必要な資金の確保